山形国際ドキュメンタリー映画祭で、テレサ・ハッキョン・チャの映像特集/『ディクテ』と『異郷の身体』
韓国・朝鮮 アート ディアスポラ
◆テレサ・ハッキョン・チャ『ディクテーー韓国系アメリカ人女性アーティストによる自伝的エクリチュール』、池内靖子訳、青土社、2003年
◆池内靖子/西成彦(編)『異郷の身体ーーテレサ・ハッキョン・チャをめぐって』、人文書院、2006年
明日から山形国際ドキュメンタリー映画祭が開催されます。とくに今回楽しみなのは、特集「シマ/島――漂流する映画たち」。
なかでも、テレサ・ハッキョン・チャの映像作品が、まとめて7本も上映されるのがすごい。
テレサ・ハッキョン・チャは、朝鮮戦争下の韓国に生まれ、韓国軍政を逃れアメリカに移住しましたが、越境の経験は、祖父母の世代からすでに始まっています。母方の家族は、日本の植民地支配を逃れて中国東北部へ移住し、母親はそこで生まれています。そして日本の満州侵略を体験。テレサ・ハッキョン・チャは、母親が「トリリンガル」であったと書いています。また自身は、パリ留学も経験しており、この自伝的エクリチュール『ディクテ』は、英語、フランス語のテクストに、一部朝鮮語と漢字も加わった多言語的テクストになっています。
テレサ・ハッキョン・チャは、映像作品だけでなく、写真や彫刻、インスタレーション、詩、などなど、多様な作品を制作しました。しかし、きわめて残念なことに、1982年に31歳の若さで、暴漢に襲われ夭逝。その試みは先駆的なもので、死後にどんどん多角的に評価されるようになっていきました。いまや、アメリカにおけるポストコロニアル、多文化主義、ジェンダー研究などの分野で必読のテクストになっているといいます。
その多言語テクストを翻訳するという、不可能な仕事に取り組んだのが、池内靖子さん。山形にも来られて、テレサ・ハッキョン・チャの作品上映時にトークをされるとのこと。
また、池内靖子さんは、『ディクテ』翻訳刊行後、今度は画期的なテレサ・ハッキョン・チャ論集を編集しました。『異郷の身体』(人文書院、2006年)。
西成彦、鄭暎惠、金友子、リサ・ロウ、などなどが執筆参加している素晴らしい論文集で、おもに『ディクテ』の読解をめぐっての考察が中心です。日本語圏では『ディクテ』とワンセットで読まれるべき本、『ディクテ』の副読本です。とりわけ、池内「境界に立つということ」は、日本でテレサ・ハッキョン・チャの重要性を認識させるのに大きく貢献した酒井直樹の読解に、ジェンダー的観点が抜け落ちていることを鋭く指摘、批判しています。
また池内さんは、巻末に「チャ映像のテクスト」として、映像作品の解説も寄せています。今度の山形映画祭の映像特集にもピッタリの解説本。山形との往復の交通機関のなかでは、この二冊を再読していようと思います。
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